2023.03.17
マーケティング

無理なく始めて楽しく続けるファンビジネス

雑誌やWEBメディアでの収益確保が厳しくなっている今、これからの活路となっていく新たなマネタイズ手法の一つとしてファンビジネスが注目を集めています。

講談社が運営する、雑誌『栗原はるみ』では、栗原さんの魅力と誌面の内容をより深くお届けするため、 CDMのソリューション「Uniikeyz」を導入し、有料オンライン会員サービス「はるみノート」をスタートさせ、ファンと双方向のコミュニケーションの活性化にトライしています。

「無理なく始めて楽しく続けるファンビジネス」をキーワードにして取り組む、雑誌『栗原はるみ』におけるファンビジネスとは?

ファンビジネスを既に始めている方、これから始める方、それぞれにとってヒントになるお話を、編集長の片岡氏、ブランドマネージャーの北口氏にお伺いしました。


2023年3月3日実施
株式会社CARTA COMMUNICATIONS(CCI)・株式会社コンテンツデータマーケティング(CDM)共催セミナー

メディアが取り組む「ファンビジネス」の戦略と最新状況
〜講談社運営メディア『栗原はるみ』編集長登壇!~

登壇者:
片岡 千晶 氏
(株式会社講談社 第二事業局mi-mollet事業部 雑誌『栗原はるみ』編集長)
北口 浩士 氏
(株式会社講談社 第二事業局mi-mollet事業部 雑誌『栗原はるみ』ブランドマネージャー)
大倉 泰平 氏
(株式会社CARTA COMMUNICATIONS メディアソリューション・ディビジョン)
高坂 友理恵
(株式会社コンテンツデータマーケティング 事業本部 企画開発部 ビジネスプロデューサー)


– メディアの次の可能性

大倉氏:
昨今、デジタルを起因としたユーザーライフスタイルの変化により、あらゆる業界の環境変化が目まぐるしいです。
それはメディア業界においても全く例外ではなく、新たなビジネスの可能性をもたらしているとも考えられます。この、次なる可能性についてどのようにお考えですか。

片岡氏:
『栗原はるみ』を創刊するにあたって、紙媒体が厳しい今の時代に雑誌を立ち上げることの意義をよく考えました。

雑誌は今、広告収入だけで成り立っていませんが、『栗原はるみ』は販売収入と広告収入でちゃんと成立する運営を意識しています。
「本のような雑誌」をモットーに、量よりも質を取り、月刊発行でなくても読者の方に届けたいものが届けられる期間で制作し、過去の栗原さんの雑誌よりも一冊の価格を500円程度上げました。
編集部の人数もタイトにして、出来るだけコストを抑えつつ、収支を合わせています。

北口氏:
従来の雑誌ビジネスの、広告収入を主軸とした収益モデルと比較し、今はより製品自体の売上の重要性が高まっていると感じます。

もちろん広告収入も大事な収益源である事に変わりはないので、各収入の依存度を分散することが重要。事業を中長期で継続していくには、更に新しいマネタイズの手段としてデジタルを主軸としたファンビジネス、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー。企画・制作した商品・サービスを一般生活者に直接販売する方式)へのトライが必要だと思っています。

高坂:
出版業界をとりまく状況は非常に厳しい状況とCDMでも認識をしており、新しいことをやっていかなくてはいけないという中で、ファンビジネスがとても重要な事業になると見込んでいます。

理由としては、世の中に流通する圧倒的な情報量の多さと、WEB広告モデル自体が変革期であることが挙げられます。

今まではメディアのPV数や広告のクリック数に応じて広告収入を得る運用型広告が主流でした。ただ、プライバシーデータ法規制やプラットフォーマーのクッキー使用規制の強化に伴い、これまでのような広告収入を期待することが難しくなってきています。

もちろん熱量のあるファンのみに向けたニッチなリーチも必要ですが、まずは改めて、メディアが自らのファンをきちんと覚えて向き合った上でD2Cビジネスを設計し、ファンの反応とそのエビデンスを広告やブランドスタジオなどのB2Bビジネスに活かす、という流れが重要になっていくと考えています。

-『栗原はるみ』における取り組みについて

大倉氏:
ファンビジネスやファンコミュニケーションといった言葉は最近色々なところで聞かれるようになりました。
実際『栗原はるみ』では、それにどう取り組んでいらっしゃいますか?

片岡氏:
過去にあった栗原さんの雑誌は、料理メインの内容でしたが、今回の『栗原はるみ』は料理を中心としたライフスタイルマガジンとして創刊しました。
現在は3号目まで発刊し、想定以上の高い実売数で推移しています。

栗原さんの料理だけではない面も見せるため、年3回の雑誌の刊行に加えて、公式WEBサイトも立ち上げました。
WEBサイトは単に数字を稼ぐためのものにはせず、お知らせやイベント情報など、雑誌には掲載されないオリジナルな内容の記事掲載を心掛けています。

また、栗原さんの魅力と誌面の内容をより深くお届けするための、ファンクラブとも言える有料オンライン会員サービス「はるみノート」の受付窓口にもなっています。

デジタル戦略を進めるにあたって大事にした前提は
1.栗原さんと楽しんでできることか
2.読者に必要とされるものか
3.ちゃんと儲けが出るものか

の3点です。

デジタルでは、やろうと思えばいくらでも何でも出来てしまうので、ついついやることが多大になってしまいがちですが、『栗原はるみ』は編集部スタッフが少ないので、少人数で無理なく継続ができることだけを行う、を意識してサービス内容を決めました。

具体的には、
・出来るだけ栗原さんが稼働しなくても成立するもの
・編集側にも負荷が多くないもの
・それでも読者に満足していただけるもの

を念頭に、日々運営しています。

北口氏:
『栗原はるみ』では、よりファンとのコミュニケーションを活性化させたいと思っています。

長年テレビや雑誌で活躍されてきた栗原はるみさんには、多くのファン・読者の方がいらっしゃいます。テレビや雑誌だと一方通行のコミュニケーションが多かったところを、「はるみノート」を介してファンの方々と双方向でコミュニケーションを行い、関係構築する必要性を感じて今回の事業を立ち上げました。
読者の声を拾って発信することで、雑誌という既存メディアにとっても新しいエンゲージメントに繋がり、その先の新しいビジネスにも繋がると考えています。

「はるみノート」のローンチにあたっては、限られた人的リソースの中でいかにローカロリーで事業運営できるか、が大きな課題でした。コンテンツやメルマガ配信、会員基盤、マーケティング、決済と多岐にわたる機能が必要の中、CDMが提供する「Uniikeyz」を採用し、継続的なサービス提供をサポートしてもらっています。

高坂:
CDMでは、会員登録して下さるファンを記憶しておく「Uniikey」、月額課金機能やファンに向けたコンテンツを提供するサイト基盤の「Uniikey D2C Cloud」、ファンとコミュニケーションを取り、分析する「Uniikey Experience Cloud」の3つのサービスを提供しています。

会員管理~運用~分析までがワンストップで叶うソリューションになります。

– ファンビジネスを推進するポイント

大倉氏:
実際にファンビジネスを進めていく上で、ファンビジネスやファンそのものの研究
はどのように行なわれたのでしょうか。

片岡氏:
栗原さんは本当にファンの多い方。自分自身もファンなので、読者に近い感覚で運営出来ていると思います。

プロジェクトのスタート前には栗原さんファンのモニター会を実施し、価格帯・コンテンツ内容などのヒアリングを実施しました。
雑誌についているアンケートハガキの戻り率も非常に高いので、そこからの読者の声や、栗原さんご本人のInstagram投稿やインスタライブでの反応やコメントも参考にしています。

栗原さんのInstagramのコメント欄は、元々ファン同士のコミュニケーションが盛んで、栗原さんそのものが、ファンコミュニティと相性の良いアイコンだと言えます。
ファンには2種類あって、ファン同士横で繋がりたい人と単独で楽しみたい人が居ます。
栗原さんファンの場合は、横で繋がりたい方が確実にいるということが元々Instagramからも見て取れていました。

北口氏:
栗原さんのインスタグラムのフォロワー数や過去の雑誌の購読者数など、ファンの一定層のボリュームは類推できる一方で、実際に「課金」してもらえるかは本当に未知の領域で、有料コンテンツの事例も少なかったです。
「はるみノート」は、サービスをスタートさせたこと自体がファンビジネスの研究という側面もあります。スタートして見えてきた課題や数値を日々研究している状況です。

大倉氏:
とはいえ、ファンビジネスを成立させるためにはいくつか乗り越えなければいけない壁や条件が存在すると思います。
『栗原はるみ』においては、どういった壁や条件が存在しましたか。

片岡氏:
栗原さんが元々ファンビジネスやサービスをやってこられた訳ではないので、ご本人の理解と信頼を得て、楽しく参加して頂けるよう、納得頂くことに時間がかかりました。
コンテンツの価格設定に関しても、正解がないので決定までにとても悩みました。

また、ファンの方の年齢層が高めなので、サイトやサービス案内に関して丁寧な対応を心掛けています。ファン層を考慮すると、皆様に楽しんで頂くにはオンラインだけではなく、オフラインも併せた施策が必要だと考えています。

あくまで雑誌本体がありきの上でのファンビジネス。ファンビジネスだけ先行すると軸がブレてしまうので、そこを履き違えないように注意しています。

北口氏:
読者が課金するサービス・コンテンツ内容を踏まえた価格帯と、運営コスト・収益の最大公約数を見つける事が一番大変でした。
読者の年齢層が思ったよりも特に高かったので、WEBサービス面でのデジタル的なハードルもありました。スタートして1年で得たデータ(登録者数・解約率、オンラインイベントの参加率、アンケート内容等)を基に、いかにひとつひとつのハードルを下げていくかが今後の課題です。

また、いざファンビジネスを始める際に、どんなシステムや運用体制を作っていけばいいのか未知な部分が多く、難航しました。
成功するかわからない段階では大きなリスクは張らず、いかにスモールスタートさせて、アジャイルでアップデートしていけるような運用体制とシステム基盤が必要だと思います。
システムに関しては今回「Uniikeyz」を採用したことで、継続的な運用がクリア出来ています。

大倉氏:
ソリューションを提供しているCDMの立場として、ファンビジネスの障壁とは何だと考えますか?

高坂:
ファンビジネスを始める時、全く新しい事業を立ち上げる、といったように構えてしまう方が多い印象なのですが、決してそうではありません。
雑誌を立ち上げる際にはSNSアカウントやWEBサイトも作成することが多いと思います。それと同じ感覚で、ファンビジネスを行う際も、雑誌・コンテンツの流れを汲むファン向けサービスを組み込んだ事業を展開していくという意識に変えるということが重要です。

また、ファンビジネスと一口に言っても様々なケースがあります。
例えば、その媒体は好きだけどファン同士の交流は要らないと思っているユーザーもいれば、同じ趣味同士で繋がりたい、交流したいというユーザーもいます。
日頃から雑誌を作る際に「読者の声」を重視しているのと同様、ファンが何を求めているかを意識することがとても重要で、私が最も編集部のみなさまと時間を使う部分です。

– ソリューション面での具体的な進め方

大倉氏:
『栗原はるみ』で、CDM社から導入されているソリューション「Uniikeyz」について、もう少し具体的に教えてください。

高坂:
CDMのサービス「Uniikeyz」は、主に3つの機能を提供しています。

まず、「Uniikey」が、ファンを覚えていくための記憶装置です。言い換えると共通IDの役割で、ここに登録すると色々なサービスを横断しても一人のお客様をファンとして認識しておけるというID管理システムです。

次に、「Uniikey Experience Cloud」は、蓄積されたデータを基に、メールやアンケート等のコミュニケーションを最適化し、その後の分析にも活かせる基盤です。

「Uniikey D2C Cloud」は、実際にコンテンツをマネタイズしてファンビジネスを実践する際に活用頂く、モノやサービスを提供し、課金する基盤です。

コンテンツビジネスに必須の、言語をよく読んで提供するモノやサービスを最適化していくAIも搭載しております。

現在既に、多くの企業や編集部にご活用頂いており、今後は更にアップデートも加えながらファンとのつながりを大切にしたいすべての企業に広く提供していく予定です。

– 質疑応答

Q:会員から特に反響の大きいコンテンツは何ですか?

片岡氏:
撮影のメイキング動画が人気です。
撮影現場に一緒に居る気分になって頂くため、編集をあまり加えずリアルな内容にしています。栗原さんの素顔が見られて、料理の手順もわかりやすいと好評を頂いています。

Q:栗原さんのファンへのアプローチで気をつけたことは?

片岡氏:
ファンの皆さんの方が栗原さんのことをよくご存知なので、ファンの方へのリスペクトを忘れないように、失礼のないようにアプローチしています。

– 『栗原はるみ』の今後の展望

片岡氏:
一年やってきて、ビジネス規模と数字も見えてきました。
これからも収益を上げるために闇雲に会員数を増やすのではなく、ファンが求めるサービスに対しての適正価格をより吟味して運営していきたいと思っています。
対面イベント等、単価の高いサービスにもチャレンジしてみたいです。

北口氏:
まずは読者が求める、本当に価値のあるコンテンツをさらにアップデートして届けることが今後のミッションです。いずれは海外展開も視野に入れています。

高坂:
編集部様の細かい要望にもお応えできるようCDMのシステムもアップデートを加え、
今後もより良いサービスを提供できるように努めます。