2024.04.03
マーケティング

ファンも作り手もWin-Winに 有料コンテンツで広がる「NET ViVi」の挑戦

SNS総フォロワー770万人のデジタルパワーをもつ「NET ViVi」は、本誌「ViVi」とは違った表現方法で、ファンの拡大に貢献しています。CDMが提供する「Uniikeyz」の「PAYWALL」機能を導入した初のメディアとして、記事コンテンツを単体で販売するなど、デジタルメディアの可能性を追求しています。

マネタイズの裏に隠された真のねらいや今後の展望について「NET ViVi」編集長の平本哲也さんにお話を伺いました。


平本哲也さん

平本哲也(ひらもとてつや)
株式会社講談社 第二事業本部 ViVi事業部ViViデジタルチーム「NET ViVi」編集長
2010年講談社入社。「FRIDAY」「週刊現代」を経て、2015年に「ViVi」へ配属。「国宝級イケメンランキング」企画を立ち上げ、2022年から「NET ViVi」編集長に就任する。

「NET ViVi」https://www.vivi.tv
「ViVi」公式LINE https://line.me/R/ti/p/@vivi
「ViVi」公式Instagram https://www.instagram.com/vivi_mag_official
「ViVi」公式X(旧Twitter)https://twitter.com/vivi_magazine
「ViVi」公式YouTube https://www.youtube.com/user/vivichannel
「ViVi」公式TikTok https://www.tiktok.com/@vivimag_official


強みは国内ナンバーワンのデジタルパワー

平本さん:日本国内はもとより中国の「Weibo」を含めると、SNSの総フォロワー数は770万人で、国内ナンバーワンのデジタルパワーを持つメディアだと考えています。年代別ではZ世代のファンが多いです。

平本さん:
従来は「おしゃれ女子のバイブル」というコンセプトでしたが、ここ数年で大きく変わってきました。
今はジェンダーも国籍も関係なく、幅広い層をターゲットと捉えています。女子、おしゃれ、日本人といったキーワードをもとに企画を作っているわけではなく、メディアとしてのテイストは決めていません。

平本さん:
紙媒体はページ数の制限もあるので、実用的な情報だけでなく、ViViのフィロソフィーや大きな世界観を見せる役割を担うイメージです。デジタルでは世界観を噛み砕いて、より実用的な方法にまで落とし込みます。

例えば、春夏のトレンドファッションを紹介する際、誌面ではハウススタジオやロケでしっかりと世界観を作り込んだ上で撮影します。
一方デジタルでは、その素材を使いつつも、かわいいだけで終わらないように、企画内で値段の訴求やスタイリングのポイントを立たせるなど、「情報」をしっかりと届けるようにしています。

自分至上主義」というコンセプトも、「ViVi」のこだわりです。モテが目的でもなく、パーソナルカラーや骨格診断にとらわれる必要もありません。ただ「着たいものを着ればいいじゃん」というスタンスを貫いています。

想定していた読者像とは異なる実態が見えてきた

平本さん:
読者像、コアなファンの方々を可視化できることが新鮮だったからです。もちろんこれまでも読者のニーズを捉えたいとは思ってきました。でもアンケートで寄せられる声には偏りもあり、作り手が読者像を勝手に決めてしまうような部分に違和感をおぼえていました。

平本さん:
「どのコンテンツから流入してきたのか」といった経路や属性などが数値化されたので、曖昧だった読者像が具体的なデータになったのは大きな収穫だと感じています。
たとえば、国宝級イケメンランキングの動向には、映画会社やテレビ局の方にも注目していただいています。それほど影響力があるコンテンツでありながら、私たち編集部は投票結果を除くとデータの中身を把握できていませんでした。今回「Uniikeyz」のおかげでデータ活用のスタート地点には立てたのではないでしょうか。

平本さん:
私たちが思っていたことと実態が、結構ずれていたということでしょうか。「Z世代向け」というカテゴライズさえナンセンスだったのかもしれないと感じるほど、実際の読者の年齢・性別が多様だったんです。一言で言えば「推し」カルチャーには年齢も性別も関係ないんですよね。

これからも「ViVi」は「誰も排除しない」メディアでありたいです。だから、たとえば男性アーティストへのインタビューでは「好きな女性のタイプは?」「彼女とどこに行きたい?」といった質問はしないようにしています。ファンは、必ずしも異性であるとは限りませんよね。「女子会」のような言葉で、わざわざ対象を限定するような表現もしません。

しかし、実際には私たち編集者は、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)にとらわれがちだとも思います。10年以上前の古い現場の感覚で判断してしまうこともありましたが、数字やデータのおかげで論理的な意思決定ができつつあるかと思います。

正当な対価を設定して自己肯定感を高めたい

平本さん:
誌面にはページ数に限りがあるので、載せきれなかったコンテンツはもともとデジタルで公開してきましたが、常に「これは無料で読んでもらってよいのだろうか?」という葛藤がありました。

単純に「お金を儲けたい」という意識とは少し違うかもしれません。
「ViVi」のコンテンツは、アーティストに加えて、スタイリストや編集スタッフも含めてプロのスタッフが作り上げています。それに正当な対価をつけなければ、自分たちの価値を自ら下げてしまう。
無料で消費されていたら、そのまま自己肯定感は高まらないのではないかと考えたんです。

メディアの成長過程によっては、本来なら有料にすべきコンテンツを無料にしてフォロワー数を増やすなども必要かもしれません。
でも一定のフェーズに達した今なら、アーティストもスタッフもエンドユーザーも、皆がWin-Winの関係になるよう、コンテンツに正当な価値をつけることがメディアとしてあるべき姿だと考えました。

平本さん:
率直に言って、まだまだ手探りで最適な金額感は摑めていません。なにしろ自己評価が低い状態からスタートした有料化なので、金額をつけるのは怖さもあり、慎重にならざるを得ないというのが本音です。
今のところ記事のファン層に合わせて設定していますが、どちらかと言えば価格を引き上げる方向で、適正な金額を探っていきたいと思います。

目指すところは薄利多売ではなく、コンテンツのクオリティを上げて、プレミアをつけて売っていく方向です。デジタルに力を入れている「ViVi」がその姿勢でいないと、他のメディアの方々にも悪影響を与えかねないとさえ思っています。
でも値付けは、本当に難しいです。「ViVi」が実施している、声優の方に出演をいただく音声がメインの「Voi Tunes」という企画は、競合となる他の音声メディアも調べています。

平本さん:
原稿をまとめる編集者が1名で、ウェブに記事をアップする担当者が1名います。誌面のスタッフに加えて、プラス2名の人員でまわしています。
今後、「NET ViVi」単独の企画を実施する場合でも、最大でも3名のフットワークの軽い体制で運営していきたいですね。「PAYWALL」は、既存のコンテンツを有効活用し、手軽に価値を最大化できるのが魅力だと思います。

有料コンテンツを支えるのはファンの熱量

平本さん:
本誌での連載企画が動き出すタイミングが、ちょうどマッチしました。オフショットや撮影の裏側といった動画には十分な付加価値があると思ったんです。

やはり有料コンテンツを見てもらうにはコアとなるファンの存在が不可欠です。アーティスト・声優のファンはハイエンゲージメントな方々だと感じていました。

平本さん:
お二人には熱量の高いファンがいるとわかっていました。

斉藤さんには、過去に「ヘアアイロンを擬人化する」という企画で声の出演をしていただいたことがあります。定説では「声優のファンはX(旧Twitter)に多い」と言われていましたが、クライアントの意向でTikTokで公開することになったんですね。それでもプラットフォームの壁を越えて、多くのファンがTikTokにまで来てくれたという成功体験がありました。まさにファンの熱量を感じた瞬間だったんです。

津田さんは国宝級イケメンランキングのボイス部門で1位を獲得した実力派声優です。投票者の幅を広げる、つまりメディアの新たなファン獲得に貢献してくれたことが決め手でした。

平本さん:
有料化することに対するネガティブな反応もあるかなと予想していましたが、一切ありませんでした。私たちが知る限りでは、無断転載や内容の流出も皆無で、アーティストへのリスペクトが感じられました。「更新楽しみにしています!」「待ってました!」など、私たちメディアに対する応援の声もいただけたのは励みにもなります。

平本さん:
手応えを感じている一方で、もっと反響を巻き起こしたいというのも率直な感想です。当たり前ですが、コンテンツでお金をいただくことは甘くないというのが現実ですね。
無料で流すようなコンテンツではないと作り手が感じていても、実際に記事単位で購入まで結びつけるためには、読者のニーズを刺激しつつ、財布を開くという心理的なハードルも乗り越えなくてはなりません。

でも、1,000円出して雑誌を購入し続けてくれる方がいるのも事実ですよね。とすれば、「PAYWALL」でも可能性はあるはずです。まだ届けるべきところにコンテンツの存在を届けきれていないのかもしれません。
出演者やアーティスト本人による拡散はもちろんですが、やはり良いものはSNS上での口コミでも広まっていくものですよね。それが本来のデジタルコンテンツの勝ち筋であり、「より広めたくなる」内容や仕組みを追求する必要があると感じます。

平本さん:
そうですね。たしかに壁はありますが、従来どおり無料で流し続けていたら、このもどかしさにさえ気づかないままだったとも思うんです。そういう点からもマネタイズに挑戦してよかったなと思います。

さまざまな切り口の有料コンテンツへと拡大させたい

平本さん:
まだ始まったばかりなので、今後いろいろな可能性はあります。ただ、デジタルコンテンツには、何かひねりやフックが必要だと思っています。いろいろ考えているので、ぜひ見てもらえればと思います。

ウェビナーやファンイベントの開催にも可能性を感じています。連載を持っているインフルエンサーの花上惇さん、本誌でも活躍中のヘアメイクさんによるマンツーマンのアドバイスなどです。

ほかにポテンシャルがありそうなのは、キャリアに関連したコンテンツですね。「どうしたらViVi編集部で働けるのですか」と、質問されることが意外と多いんです。
今編集部で働いているZ世代のスタッフにリアルな経験を語ってもらったり、就職の話題、フリーランスの働き方、税金のこと、PMSやフェムテックといったヘルスケア関連のテーマなど、身近なところでは質問しづらい話題が、ウェブではねらいやすいのかもしれないと感じています。アクセスのよかったヒットコンテンツなら課金制にしても十分勝負できるのではないかと思います。

まだまだ試行錯誤は始まったばかりです。有料だからこそ、結果にこだわれると信じてやっていきます。

INFORMATION

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